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EVENT REPORT:残月の涙 遊女阿部屋清花
2015. 9.3 tue – 9.6 sun KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ

2015.10.9

現在のダンスシーンにおいて独自の路線を貫き、人気・実力ともに急上昇している鬼才コレオグラファーavecooをご存じだろうか?今や彼が作り上げる作品は常に話題の中心になり、11月に行われるNOA DANCE IMPACT 2015 Winterにも新作ナンバーを出すことが決定している。そんな彼が今回、強い絆で結ばれたavefamメンバーと共に新作公演を行った!
 4日間で全5公演を行い、見事会場を観客で埋めつくし、もう一度見たい! 次の作品も楽しみ! こんなすごいダンス公演初めて! といった観客から絶賛の声が多く届き、再演を望む声も多い事から、公演は大成功だったといえるだろう。
 この公演が実現するまでのエピソードですごい所は、彼がNOAダンスアカデミーの発表会で作り上げた花魁を表現した作品「阿部魁」がコンテストで高い評価を受け、会場となるKAAT神奈川芸術劇場から公演開催のオファーを受けたということだ。公演を開催するために、会場をダンサーが探すことはよくあることだが、会場側から一緒にやりたいと言われることは異例とも呼べるだろう。そして、本公演の注目は今まで5分前後の作品を作っていた彼が、90分という長い公演時間でどういう世界観やダンス、演出を見せてくれるかに注目が集まっていた。
そして、始まった阿部屋の舞台。彼が生み出したストリート歌舞伎と呼ばれる作品の完成度は予想をはるかに超えていた。舞台の作りから、映像、衣装、ダンス、演出にわたって世界観を大切にしつつ高レベルの物を提供し、話の内容以外にも彼らが見せたい部分というものがよく伝わる内容だったと言えるだろう。花魁の華やかな部分と辛く悲しい部分。人を愛する事の喜びと愛すれば地獄に落ちてしまう残酷な運命。そして花魁だけでなく、花魁の相手となる男側にも病や過去の罪など決して幸せとは呼べない描写がよく描かれていて、人を愛することで壊れてしまうなにかという切なさが伝わる内容であった。それに加えて、世間ではあまり知られていない花魁の一面などもシーンとして登場させているあたり、avecooの花魁を作品にするということへのメッセージ性を感じることが出来る。
 例えば、花魁は琴の演奏や立ち振る舞いなど上層教育を受けて一流の花魁になる過程や、子供の頃から花魁のそばに付き、修行もかねてお世話をする禿の存在などの組織的な部分、こういう日常を送っていたのかと思わせる生活部分を描いたりなど、花魁の世界観を作り上げるためにかなりの勉強をし、出演者もよく熟知したうえで舞台に上がっていたといえるだろう。過激なシーンやコミカルなシーンも決してやらしく見えたり、下品に見えず、綺麗と思わせるあたり、出演者の表現レベルもかなり高い所までいっていた。この公演が実現するまでに、avecoo、出演者、スタッフの全員は幾度とない壁や困難にぶち当たったと思うが、その一つ一つが良い形になって表に出た、最高の舞台を作り上げたといっていいだろう。
 今までのavecoo作品に出てくる女性は、ほとんど死という悲しい結末で終わっていたが、今作の女性である花魁・清花はどのような結末をおくったのだろうか。それは見た人によって彼女のストーリーは変わってくるだろう。ただ一つ感じたのは今作の彼女の生き様はどこかこれからのavefamの姿を映しだしているように思える。そんな思いが伝わる舞台であった。

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